『非色』 有吉佐和子
2005年1月15日 英米文学 コメント (1)【あらすじ】
敗戦後の東京、食べるものに事欠き貧しい生活をおくっていた主人公、笑子は進駐軍経営のニグロ専用のキャバレーで働いていた。そこで親切で紳士的な黒人のトム伍長と出会う。二人の仲は急速に深まり、周囲の反対を押し切って結婚、やがて初児のメアリイが産まれる。
やがて軍の命令でトムは本国に帰国するが、なかなかアメリカにおいでという連絡は来ない。メアリイは肌が黒いため、黒ん坊として周囲からいじめられ、笑子の母や妹までもが黒ん坊が自分たちと血がつながっていることを恥だと言ってなじる。この状況に耐えられなくなり、娘のためを思って、日本よりずっと良い生活が待っていることを信じて笑子も渡米する。
トムは日本で軍人として生活している間は給料も良く裕福だった。しかし、アメリカに帰ってみるとハーレムの一部屋で生活は始まり、ろくな仕事もなく、笑子はレストランなどで働くこととなる。次々に産まれてくる子供の世話とやりくりに奮闘する笑子であったが、ことあるごとに「ニグロの妻」という立場にあるという現実に打ちのめされる。トムも日本にいる間は自信と愛情に溢れた良き夫であったが、アメリカに帰ってみると疲れきった黒人の男になっていた。なぜニグロは差別されるのであろう…第三者的に悩み苦しんでいた笑子であったが、やがて自分もニグロであるということを悟る。そして最後に自分自身に向かって「私も、ニグロだ!」と叫び、逞しく生きていく決意をする。
【感想】
主人公はニグロと結婚し、ニグロの妻だということで日本でもニューヨークでも厳しい生活を強いられる。トムは給料の良い軍人ということで日本人には好意的にとらえられているように思えたが、アメリカだけでなく日本でも黒ん坊は差別の対象になったということに驚きを隠せなかった。これは黒人=劣等という認識の輸入、また一民族しか存在しない島国日本で他民族は排他すべきという閉鎖的な考えが根底にあるのではないだろうか。けれども戦争花嫁にふりかかる社会からの圧力と人種差別を理解し、それを受け入れて生きていこうとする笑子の姿勢、その強さと逞しさに感動を覚えた。
気になったのはトムが自分の娘メアリイを白雪姫と呼ぶ点だ。メアリイは日本人と黒人のハーフなので、多少は黒人性は薄れているかもしれないが、やはり黒人の血が混じっていて、周囲からは黒ん坊と揶揄される子供である。なぜトムは白雪姫と呼んだのだろうか、いやそう呼びたかったのかもしれない。黒人として生きるということの困難が少しでも自分の娘に降りかからないように、という親心だろうか。アメリカで黒人として産まれ、生きていくことは計り知れないほどの悲しみと苦しみを背負うことだと感じた。
人間は誰しもが他の者よりも上でありたいという気持ちを持っている。他者と比較し、自分のほうが優れていると確認しなければ落ち着かず、自分の自我を形成させているように思う。差別意識はそこから生じるものであると考えたら、決して無くなることのないものではないかという考えに行き着き、気分が暗くなった。タイトルの『非色』は「色にあらず」で、肌の色は関係ないという意味でついたものだと思う。色を超えて生きていこうとする主人公の姿は著者の願いが込められているように思われる。
敗戦後の東京、食べるものに事欠き貧しい生活をおくっていた主人公、笑子は進駐軍経営のニグロ専用のキャバレーで働いていた。そこで親切で紳士的な黒人のトム伍長と出会う。二人の仲は急速に深まり、周囲の反対を押し切って結婚、やがて初児のメアリイが産まれる。
やがて軍の命令でトムは本国に帰国するが、なかなかアメリカにおいでという連絡は来ない。メアリイは肌が黒いため、黒ん坊として周囲からいじめられ、笑子の母や妹までもが黒ん坊が自分たちと血がつながっていることを恥だと言ってなじる。この状況に耐えられなくなり、娘のためを思って、日本よりずっと良い生活が待っていることを信じて笑子も渡米する。
トムは日本で軍人として生活している間は給料も良く裕福だった。しかし、アメリカに帰ってみるとハーレムの一部屋で生活は始まり、ろくな仕事もなく、笑子はレストランなどで働くこととなる。次々に産まれてくる子供の世話とやりくりに奮闘する笑子であったが、ことあるごとに「ニグロの妻」という立場にあるという現実に打ちのめされる。トムも日本にいる間は自信と愛情に溢れた良き夫であったが、アメリカに帰ってみると疲れきった黒人の男になっていた。なぜニグロは差別されるのであろう…第三者的に悩み苦しんでいた笑子であったが、やがて自分もニグロであるということを悟る。そして最後に自分自身に向かって「私も、ニグロだ!」と叫び、逞しく生きていく決意をする。
【感想】
主人公はニグロと結婚し、ニグロの妻だということで日本でもニューヨークでも厳しい生活を強いられる。トムは給料の良い軍人ということで日本人には好意的にとらえられているように思えたが、アメリカだけでなく日本でも黒ん坊は差別の対象になったということに驚きを隠せなかった。これは黒人=劣等という認識の輸入、また一民族しか存在しない島国日本で他民族は排他すべきという閉鎖的な考えが根底にあるのではないだろうか。けれども戦争花嫁にふりかかる社会からの圧力と人種差別を理解し、それを受け入れて生きていこうとする笑子の姿勢、その強さと逞しさに感動を覚えた。
気になったのはトムが自分の娘メアリイを白雪姫と呼ぶ点だ。メアリイは日本人と黒人のハーフなので、多少は黒人性は薄れているかもしれないが、やはり黒人の血が混じっていて、周囲からは黒ん坊と揶揄される子供である。なぜトムは白雪姫と呼んだのだろうか、いやそう呼びたかったのかもしれない。黒人として生きるということの困難が少しでも自分の娘に降りかからないように、という親心だろうか。アメリカで黒人として産まれ、生きていくことは計り知れないほどの悲しみと苦しみを背負うことだと感じた。
人間は誰しもが他の者よりも上でありたいという気持ちを持っている。他者と比較し、自分のほうが優れていると確認しなければ落ち着かず、自分の自我を形成させているように思う。差別意識はそこから生じるものであると考えたら、決して無くなることのないものではないかという考えに行き着き、気分が暗くなった。タイトルの『非色』は「色にあらず」で、肌の色は関係ないという意味でついたものだと思う。色を超えて生きていこうとする主人公の姿は著者の願いが込められているように思われる。
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