『チャイナタウンの女武者』は著者やその母親たちの自伝的物語を通して中国人女性がアメリカで直面する苦悩や困難が描かれており、殺伐とした印象を受けた。また、いかにも中国的な幻想の世界観は、母親から聞いた「中国」を著者なりに表現したものであるが、我々「外国人」が「中国人らしさ」として描くイメージとぴったりで、マキシンは中国人の血が流れているけれども、やはりアメリカ人(外国人)なのだと感じた。
この本の中でキーワードとして出てくる「沈黙」を見て思い出したのが、中国の3大宗教のうちのひとつの儒教が沈黙の宗教と呼ばれている、ということだ。儒教は古い家族制度を支える封建的思想であり、マキシンの母親の英蘭の強固なイメージは儒教的だと思う。その母親の持つ儒教観、沈黙の思想は幼い頃からマキシンの潜在意識に刷り込まれていったのではないかと想像する。しかし、母親は花木蘭の伝説などの話では強く生きることの重要性を教え、結果的にマキシンが中国系アメリカ人女性であるからこそ女武者になりうるという思想を持たせることにも繋がっている。そしてマキシンは伝説の花木蘭に関して“この女武者とわたしがまるっきり似ていないというわけではない”(p74,l1)と自分と花木蘭に類似点を見出そうとしているのだ。女武者花木蘭が復讐を意味する「仇」や「報」を背中に彫りつけたように、マキシンは「シナジン」「黄色ドジン」などといった白人鬼が中国系アメリカ人へ与えた言葉のレッテルを体に刻み込みながら、中国人の特徴と考えられる「沈黙」を打ち破り、自伝を通して一中国系アメリカ人女性を「語る」。マキシンにとって「語る」ことが最大の主張であり、白人鬼たちへの抵抗であり、中国人女性の「解放」だと考えているならば、この本は、中国系アメリカ人女性マキシンの英雄伝であるのかもしれない。彼女は「語る」という手段によってチャイナタウンで女武者となりうるのだ。題名に関していえば、原作の『The Woman Warrior 』では中国人女性の話という印象しか持てないので、やはり『チャイナタウンの女武者』の方がアメリカのチャイナタウンに住む中国系アメリカ人のマキシンの自伝というテーマがはっきり表現されているような気がするので、私は好きです。

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